アフリカはまだか

エア・インディアの機内はガラガラであった。我々は当然エコノミーであるが、エコノミーにいる乗客全員が空いている席の肘掛けを上げてそこに横になれる状況である。勿論私もそうした。

しかしその前に同じツアーに参加する方々があと2名いると旅行会社から聞いていたので、それらしき人を探して挨拶をすることに。

実はこのツアーは最低催行人数が4名であり、申し込みは我々2名しかいなかったのである。そこで旅行会社に、

「なんとかなりませんか。」

などと無理を言っていたのだが、幸いモスクワ経由のツアーに申し込んでいる組があるので、そちらを説得して参加して頂きます、との返事だったのだ。

「そんなことしていいんですか。」 と尋ねたら

「モスクワ経由ははっきりいって危ないので私共もできれば変更していただきたかったのです。特に新婚旅行ともなれば…」

なんと、もう一組は新婚さんだったのだ。なんだか非常に申し訳ない気分なので、我々なんぞ気にせず新婚してもらおうと思い挨拶だけでもと思ったのだが、これがご主人も奥様も気さくな方で、この後の旅がとても楽しいものになったのである。

考えてみれば新婚旅行でアフリカへ行こうと思う方々だから余計な心配だったのかもしれない。根拠はないが。

乗っている日本人の90%がサイババに会いに行くという「サイババツアー御用達便」が、デリーを経由してボンベイに着いたのが現地時間の朝8時頃。

本来は昨日の夜に到着してホテルで一晩ゆっくりできる筈だったのだが残された時間はわずかに3時間だけ。

一応ホテルへ行きシャワーを浴びたら1時間程ベッドで仮眠してすぐに空港へとんぼ返り。

おかげでインドの雰囲気は全然味わえなかったかというと、さにあらずさすがにインドである。空港への行き帰りの車中から見る風景はやはりインドであった。

「バクシーシ」も聞いたとおりだし、自動車は走りながらぶつかり合って、まるで遊園地のアトラクションのようだ。

そして、インドでも空港は鬼門だった。チェックインカウンターへ行くと、10ケ所はあるカウンターが全てクローズしており、真ん中のカウンターに100人以上のインド人が押し寄せて、なにやら航空会社の人間とやりあっている様子である。

当然我々のチェックインなどできる筈もなく、ただ呆然とするだけ。ケニア行の便は何時に出るか誰も知らず、そのくせ電光掲示板は「ON−TIME」などとふざけた表示になっており、我々は荷物を抱えたまま、またもや空港難民となったのであった。

椅子に腰掛けて幽体離脱しかけていると、隣の親切なインド人のおばさんがこの騒ぎを説明してくれた。

なんでもディスカウントチケットを持っている客のダブルブッキングだそうで、あぶれた客とエア・インディアが乗せろ乗せないの押し問答を続けているのだそうだ。

それにしても、応対している社員はひとりだけなんだから、全部のカウンターを閉めることはないんじゃなかろうか。中でおねえちゃん達が暇そうにおしゃべりしているのがよく見えるのに。インドの不思議である。

この騒ぎは朝の5時からやっているらしく、その時は既に11時なのでもう6時間も飲まず食わずで全員で団交していることになる。素晴らしいエネルギーである。インド人おそるべし。

空港難民と化して5時間後、なにやら歓声があがった。どうやら乗客側が勝利を勝ち取ったらしい。彼らにとっては10時間をかけて手に入れた勝利であるが、あの喜びようだと全面勝利のようだ。みな笑みを浮かべぞろぞろと動きだした。なるほど、これなら10時間ぐらい遅れるのは訳がない。

それからしばらくしてやっと我々の便も出発となったので、親切なインド人のおばさんに別れを告げて飛行機へ乗り込んだ。

機内で私は「やはりインドとはきっちりかたをつけねば」と決意し、「次はインドだ!」との誓いを新たにしたのであった。

妻は二度と足を踏み入れたくないと言っているが、そんなことでうまいカレーを食おうとは甘い考えである。

はて、これはアフリカ旅行の話であって、インドの話ではなかった。

はい、お待たせしました、飛行機はやっとアフリカへ到着です。

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