闇夜で驚く

ゲームドライブは1日2回、朝と夕方に行われる。朝は6時出発、夕方は4時出発で一回2時間程度だ。日中は暑いために動物、特に肉食獣の活動が低下して遭遇しにくくなるからだそうで、確かに日中の気温は35度を超える。

しかし、朝晩の冷え込みは厳しく、早朝のゲームドライブでは長袖の上着が必要な程涼しい。日本では1年に四季があるが、ケニアでは1日に四季がある、というそうだ。素直に納得。

この日は、星の写真を撮るために朝3時に起きた。アンボセリロッジでは自家発電のため、深夜は電気の供給を止めるので、文字どおりの闇夜だ。部屋から出て空を見上げると満天の星、星、星。しばらくは声も出ず立ち尽くしてしまった。

はっと我にかえり中庭に目をやると、遠くに小さな明かりが見える。少しずつ動いているようだ。はて、なんだろう・・・と考えているといきなり後ろから声がした。

「ジャンボ」

腰を抜かして座りしょんべんしたままバカになってしまうかと思う程驚いて振り向くと、声の主はロッジの従業員だった。なるほど、闇夜にサンコンである。

聞けば危険な動物がロッジ内に入って来ないように、一晩中パトロールをしているのだそうだ。さすがにアフリカだ。快適なロッジでも野生味溢れている。

ジャンボ、とはスワヒリ語の挨拶で、これひとつで朝昼晩全てに使える大変便利なもの。彼は夜中に外に出ている私を心配して声をかけてくれたのだ。遠くに見えた明かりも仲間の懐中電灯であった。

彼に「星の写真を撮る」と言うと、ならば私が一緒にいてあげよう、と言ってそれから2時間の間私の横でガードをしてくれた。親切なお兄さんである。彼の話によると、ここで一番危険なのはバブーン、つまりヒヒだそうだ。襲われて怪我をする人も年に何人か出るらしい。

彼のおかげで無事に 星の写真 を撮ることができた。チップを差し上げようとすると、「仕事だ」といって受け取らない。ケニアはチップの習慣があるので珍しい人だな、と思っていると、

「そのカメラで私の写真を撮ってくれ。」

と言う。ケニアではカメラはまだまだ高価で一般の人はなかなか買えないが、マサイ族を除いてみな写真好きなのだそうだ。喜んで何枚か撮ってあげて彼の住所を聞き、必ず送ると約束して部屋へ戻った。

日本に帰ると約束どおり写真を送ったが、この後様々なところで計8人の方々と写真を送る約束をすることになるのであった。本当に皆写真好きだ。

5時半になったのでテラスへ行ってみる。アンボセリはキリマンジャロ山の美しさでも有名なのだが、昼間は雲がかかり見えなくなることが非常に多く、早朝でないとなかなかその姿をあらわさないらしい。

その日は朝もやの中、かろうじて山頂付近だけ雲から出ているキリマンジャロ を見ることができた。タンザニアに位置する山なのだが、ケニアのアンボセリ側から見る景観が一番美しいと言われ、タンザニアの人々は面白くないそうである。

その後早朝ゲームドライブ。アンボセリには国立公園内で唯一歩くことのできるオブザベーションヒルというところがあり、そこからの360度の眺めは素晴らしかった。小高い丘の上から見下ろす象の群れは車から見るのとはまた違った感動を与えてくれる。

ロッジへ戻り朝食をとると、後は午後のゲームドライブまで7時間程のんびりと過ごすことになる。ロッジからは出られないのを良いことに、

「わし、もう、なーんもせんもんね。ビールは飲むけど」

と、ポレポレを堪能してしまった。もともとこういう奴なのである、私は。

かくしてアフリカ2日目はのんびりと過ぎてゆくのだった。

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