ハーレムの正体は

マサイ・マラ2日目の朝は、新婚ご夫婦とは別行動となる。我々は通常のゲームドライブ、新婚ご夫婦はバルーン・サファリである。

バルーン・サファリとは、熱気球で空に上り、上空から動物達を見ようという、実に優雅でスリリングなイベントである。1時間程の風まかせのフライトの後は、降りたところで朝食。トラックがどこまでも熱気球を追いかけて来て、降りた所に食卓を作ってしまう。なんとシャンパンまで飲み放題だ。

なぜ我々がバルーン・サファリをやらなかったかというと、単に予算の都合である。お一人様5万円、二人で10万円では、家庭内稟議が却下されてしまっても仕方のないところである。なにしろ私は、このアフリカ旅行のために、カメラやら望遠レンズやらをしこたま買い替えてしまったのだ。奥さんすまん。

後で新婚ご夫婦に伺うと、「素晴らしい」の一言。動物たちは車には慣れているが、熱気球はまだ恐いらしく、上空に来るとみな駆け出して逃てしまう。可哀相な気はするが、サバンナを駆けるシマウマやキリンは感動的に美しいとのこと。うーむ、次は必ずバルーン・サファリもやるぞ。シャンパンも飲みたいし。

我々のゲームドライブはというと、大きな成果のないまま終了してしまった。雄ライオンにも会えなかった。ジョージさんは

「大丈夫です。マサイ・マラでは必ずライオンに会えます。心配いりません。」

と頼もしいことを言ってくれるが、私の運は、例のシロサイで全て使い果たしたのではないかと思っているので、新婚ご夫婦の運に期待することにする。妻の運は、飛行機が落ちないために使ってもらわなくてはならないからだ。

その後は、昼食後、夕方のゲームドライブまで昼寝。ロッジの中は涼しく、窓から入る風が心地良い。3時間の爆睡となった。

再び4人揃ってのゲームドライブ。目標は雄ライオンに絞ってサバンナを探し回る。いかにもライオンがいそうな水場やブッシュを見て回るが、全てはずれである。ワンギさんの神通力もこれまでか、と思ったところ、チーター発見。実はチーターは、私が一番会いたかった動物なのだ。2匹で寝転んでいるところに遭遇し、もう最高に興奮。残念ながらハンティングは見られなかったが、 実に美しい動物である。私が猫なら惚れてしまう。意味は不明だが。

その後、ロッジへの帰り道に、なんとクロサイがいた。これまた絶滅寸前といわれている動物で、出会うことは非常に希だそうだ。我々はシロサイ・クロサイ、両方と遭遇できたことになる。ジョージさんは

「あなた方は、本当にラッキー。こんなことは私も滅多にありません」

と驚いていた。チーターとクロサイに会えて大満足の我々を乗せて、車はロッジへと帰る。これでBIG5にはあと雄ライオンとヒョウを残すのみとなった。この分なら大丈夫かもしれない。

ロッジに戻って、今度は我々夫婦がナイト・サファリに参加する。これは走るトラックの上から投光器で辺りを照らし、夜行性の動物や夜の草食動物達を見た後に、外で食事をする、というなかなかワイルドなもの。

なぜ我々がナイト・サファリをやったかというと、安かったのである。お一人さま5千円、二人で1万円は家庭内稟議を必要としない額なのだ。それに、少しでもたくさんの種類の動物を見たかった。トビウサギなどはまず、夜でないとお目にかかれない。

この選択は大正解で、トビウサギ・マングース・野ウサギなど、夜行性の動物がたくさん見られた。残念ながらマングースは遠すぎて写真は撮れなかったが。

このサファリには、他に3人の奇麗な日本人のお嬢さん方が一緒で、つまり女性4人に男は私一人という、実になんとも嬉しい状態になったのだが、よく考えれば妻もその内の一人なので、それほど嬉しくないことに気が付いて平常心に戻った。

彼女たちは明日、日本へ帰るのだが、とうとうライオンには会えなかったそうだ。雌や子供も見ていないという。気の毒に思うが、マサイ・マラでもライオンに会えないことがあるんだとわかり、ますます新婚ご夫婦の運にすがるしかないと思ってしまった。

食事の場所へ着いてみると、既にテーブルがきちんとセットされ、蝋燭が灯っている。空には満天の星。これならいくら鈍い私でもロマン チックな気分になってしまう。これからケニアへ行かれるカップルには、ナイト・サファリがお薦めです。私も結婚前に行きたかった・・・

食事はきちんとしたコースで、嬉しいことにこちらもシャンパン飲み放題であった。サービスのお兄ちゃんは、帰りの荷物が少ない方が良いのか、バンバン開けてドンドンすすめる。私もジャンジャン飲んだ。

お兄ちゃんが私に向かって

「まるでインパラのようだ」

と言った。なんのことか一瞬判らなかったが、インパラは雄1頭に雌数十頭のハーレムを作ることを思い出し、

「そう、ハーレムである」

と答えるとすごく楽しそうに笑った。彼は男性が私一人なのでそう言ったのだ。真実にはほど遠いが・・・

その晩はハーレムの夢を見ながら眠った。夢の中の私はハーレムからあぶれたインパラだったけど。

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