禍福は糾える縄のごとし

マサイ・マラ3日目の朝、いよいよアフリカ最後のゲームドライブが始まった。この後はナイロビに戻り、帰路へ着かねばならないのだ。これがラストチャンスである。ジョージさんもワンギさんもなんとか雄ライオンを見つけようと必至に頑張ってくれている。

ヒョウはライオンのいるサバンナではなく、川沿いの木の上にいることが多いので、我々はライオンに的を絞り、ヒョウは諦めた。こうなればなんとしても探し出さねば。

ワンギさんは、行き交う他のサファリカーのドライバーと情報交換をしながら、懸命に車を走らせる。ジョージさんも双眼鏡で探索を始めた。

再びチーターと遭遇。嬉しかったが、ゆっくり見ている時間はない。ここまでくると、最初の頃は会うたびにあんなにおおはしゃぎしていたキリンやシマウマに会っても、もはや誰も何も言わない。人間とはかってな生き物である。

サバンナを走り回ること1時間30分。依然、雄ライオンの姿はない。あと30分でこのゲームドライブは終わってしまう。もはやこれまでか、と思い始めたとき、ジョージさんがある方向を指差した。

そこには1台のサファリカーが停まっていた。先ほどからずーっと動かないのだそうだ。何がいるか判らないが、とにかく行ってみることにする。しかし、近づいて行っても動物らしきものは見当たらない。ジョージさんが向こうのドライバーと話をして

「故障です」

ということが判明した。ロッジとの連絡はとれているのでまもなく迎えがくるそうだ。

我々もロッジからかなり離れているので、もう戻らなければならない、とジョージさんが行った。もはや誰もが諦めかけていた。やはり運は全て使い果たしてしまったようだ。

その帰り道、ちょっと離れたブッシュの所に停まっている車を発見した。やはりかなりの時間停まっている様子だ。ジョージさんが行ってみましょう、と言う。

車はゆっくりとブッシュを回り込んで近づいた。すると、いるではないか!雄ライオンである!しかも新婚旅行らしく、雌も1頭一緒にいる。やった、ジョージさん、大金星である。もしジョージさんが行こうと言わなければ、きっと素通りをしていたに違いない。

この2頭はまさに新婚旅行の真っ最中で、人目をはばからず子孫繁栄に勤しんでいる。大自然の中でのその営みはおおらかで、そして荘厳ですらあった。

私はフィルム1本を使い切り、皆、意気揚々とロッジへ戻った。もはや心残りはない。ありがとうサバンナ、ありがとうケニヤ、ありがとう動物たち。

その後、荷物をまとめてまたあの悪路をしばらく走ったが、もうなんでも許すからね、という幸せな気持ちであった。

途中、グレートリフトバレー(大地溝帯)と呼ばれる、とてつもなく大きな地球の割れ目を見る。あまりに大きすぎてとても割れ目には見えなかった。

帰りのインド行の飛行機の出発時刻が迫っているというので、例によってワンギさんが猛スピードで突っ走る。このままではナイロビでの買い物の時間があまりとれなくなってしまうようだ。まだお土産も買い揃えていないのに。

ナイロビに着いたのは、20分程買い物の時間がとれるというギリギリの時刻。ジョージさんにスーパーマーケットへ案内してもらい、適当に買うことにした。その間にジョージさんは会社へ戻り航空券を取ってくるという。

訳のわからないインスタントスープや紅茶を買っていると、ジョージさんが戻ってきた。なにやら表情が暗い。

「すみません。今日の飛行機、飛ばなくなりました。」

な、なに〜!・・・エア・インディアは、我々の旅をそう簡単には終わらせてはくれないようだ。

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