97年3月前半

うーん、弱った。今回はいきなり泣き言から始めてしまったが、ゴエモンが悲惨な状態になってしまった。何が原因か、最近やたらに前足を舐めるのである。顔を洗うために自分の手を舐めてから頭、顔を撫でることは今までも当然やっていたが、そんなものではない。両方の前足の付け根から足先にかけてしつこく舐めのである。

今のゴエモンは口がうまく閉じず、よだれだらだらの「牛猫」と化しているため、舐めれば舐めるほどびしょびしょになっていく。しかもそれに血が混じっているため、白い毛が赤黒く変色してしまった。

その上、あまりに舐めすぎて付け根から間接までの毛はすっかり抜けて地肌が見える。皮膚炎を疑ったが、その様子もない。せっかくシャンプーしたのに、その辺の野良猫よりも小汚くなってしまった。まぁ、それはいいのだが、このままでは皮膚がやられてしまう。先生に相談すると、

「痒み止めを出しましょう。それで治まらないようなら連れてきて下さい。」

とおっしゃった。軟膏でもくれるのかと思ったら、なんと飲み薬であった。今までの薬に混ぜて処方していただいたが、<飲む痒み止め>もちょっと不思議だ。しかし、痒みというのは痛みの弱い奴、つまり同じ痛点で感じる、という話を聞いたことがあるのを思いだし、なんとなく納得した。大体軟膏では、塗ったそばから舐めとってしまうだろうし。

次の日の朝と晩、2度飲ませるとしつこく舐めるのは治まった。やはり痒かったらしい。原因はわからないけど。しばらく様子を見ることにしたが、赤黒く染まった毛はいくら洗ってもきれいにならない。

あごの膨らみもどんどん大きくなっていく。そのせいで左の歯がみな外側を向いてしまった。これでは餌も食べにくかろう。でも食欲は衰えないんだな、これが。先生も、薬をもらいに行くと毎回

「食欲はありますか。」

と心配して下さるのだが、その度に

「はい。あきれるほど・・・」

「そうですか。それはなによりです。好きなだけ食べさせてあげて下さい。」

という会話が繰り返される。それでもさすがに最近は餌を残す様になったので、いよいよ食欲減退か、と思ったらこれが違った。この野郎、すっかり贅沢になってしまったのだ。病気になってからこっち、まわりが妙に優しくするものですっかりいい気になっている。

咀嚼がうまくできないからペースト状の餌、主にモンプチを与えているのだが、これに飽きたらしい。同じ味では飽きるだろうと、数種類をローテーションでやっているのに、半分も食べない内に食べるのをやめてしまう。そのくせ、足下に来て

「にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ」

と餌の催促をする。そこで私が

「えーい、この野郎まだ残ってるじゃないか、それを食え!」

と怒鳴りつけるかというと、さにあらず。

「しょうがないな。じゃあ今日は鰹節をかけてあげよう。」

などと大甘も大甘、サッカリンのごとき飼い主となり花かつおを振りかけてしまう。すると食うんだな、こいつがまた。かくして贅沢はきりがなくなっていく。このままでは飼い主よりいい物を食う様になるのも時間の問題かもしれない。別にいいけど。

可哀想なのはピーターだ。ゴエモン発病当初、大量に残っていたドライフードの処理係として活躍してくれた後、ゴエモンと同じ餌にしたのだが、飼い主も知らなかったが、こいつは缶詰を食べ続けると下痢をする猫だったのだ。食べた餌と同じ色で同じ形状の糞が出てくる。違うのは匂いだけだ。汚い話ですまん。

仕方なくドライフードに戻したが、味としては缶詰の方がうまいのだろう、餌の時間になると、餌の前に座り、ゴエモンと自分の皿を見比べて、私の顔を悲しそうな目で見上げる。しばらく動かずにいるが、私が無視しているとやがてあきらめてもそもそと食べ始める。待遇の違いには気づいているだろうが、文句を言わないのは立派だ。だから、ゴエモンの餌に鰹節をかけるときにはピーターにもお裾分けをすることで許してもらっている。

なんにしても、ゴエモンの食欲が健在な内は我々もちょっと安心である。もっと食え、ゴエモン。

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