「ああ、どこへ行けばいいんだ。」
旅行の行き先で迷い始めてから既に2週間が過ぎようとしていた。それもこれも結婚などというものをすることにしたからで、じゃぁそんなこと決めなければ良かったと思うのか、と言われるとそんな命知らずな発言は絶対にしない。
「かぼちゃ料理と結婚式の段取りは女性にまかせておけば良い」とは人生の先達から教えられた言葉であるが、なるほど放っておいても勝手に色々と決まっていくから不思議である。
しかし、旅行だけには口を挟みたい。せっかく大手を振って仕事を休めるのに、つまらない旅行はしたくないではないか。幸いにも、妻になるであろう女性からは
「旅行については好きにしてよろしい」
とのありがたいお言葉を頂いていた。早速あれやこれやと考えたのだが、中々決まらない。はて、いつもは
「世界中、行きたい所ばかりだぁ〜」
などとほざいていたのに、これはいかなることであろうか。悩む内に、よくよく考えると、これがいわゆるひとつの新婚旅行であるためではなかろうか、との結論を得た。
おお、そうか私にも少しの良心はあったのだな。確かに女性は、新婚旅行にイースター島やギアナ高地には行きたがらないかもしれない。かといって私は○○○や×××××には興味はない。
う〜ん困った。えい、もうカナダでいいか。カナダは妻になるであろう女性が、幼少のみぎりに暮らしていた地なので、まぁ新婚旅行の行き先としては無難である。選択に疲れきった私は、カナダツアーを探すべく、旅行情報誌のページを弱々しく繰り始めた。
その時である。1枚の写真が私の目に飛び込んできた。それはあるリゾート地の航空写真であった。エメラルドグリーンの海、真っ白い砂浜、そして紺碧の空。絵に描いたようなリゾートの写真がそこにあった。どうやら島のようだ。それも、かなり小さな島。細長い島の両側には海が広がり、その幅はホテルなどの建物と比べてもかなり狭い。せいぜい数百mという感じである。
「どこだ、ここは?」
説明を読むと、その島はメキシコにあり、島の両端がユカタン半島と橋で繋がっているらしい。全長22km、最大幅400mの「地続き島」のようだ。
まてよ。メキシコ、ユカタン半島と言えば……そうだ、マヤ遺跡だ。行きたかったんだよね、マヤ遺跡。あわてて探すと、ありました、マヤ遺跡「チチェン・イツァ」へ行くオプショナルツアーが。しかも日本語ガイドだ。これだ、これしかありません。私は妻になるであろう女性に電話をした。
「メキシコの素晴らしいリゾート地に決めた。え?違う、アカプルコじゃなくてカンクンだ。」
時に1990年8月のことである。