2.気持ち悪いこと三題

気持ち悪いことってなにがあるだろう。二日酔いでガンガンする頭で、喉元までこみ上げてくる酸っぱいゲロをまた飲み込むってのも随分と気持ち悪いけど、夜中にトイレへ行ってスリッパを履いたら中にゴキブリがいて思い切り踏みつぶしちゃったというのも嫌だなぁ。

そういうのを挙げていくときりがないから、ここでは今までに僕が遭遇した気持ち悪いことを三つお話しようと思う。人によっては全然気持ち悪くないぞ、という方もいるかもしれないけど。

ひとつめ。

昔、僕がまだ学生の頃、家で犬を飼っていたんだ。こいつがジャーマン・シェパードという、警察犬や麻薬犬といった使役犬として活躍している種類。とても犬らしい犬で大好きな犬種なんだけど、図体がでかいから餌を食うこと食うこと。うちではドッグフード中心にやってたんだけど、近所の肉屋で屑肉を骨ごとミンチにしてもらってはたまに食わせてもいたんだ。

犬って、骨が大好きだけど鶏の骨は与えない方がいい。鶏の骨は縦に鋭く裂けるように折れるので下手をすると内蔵に刺さってあの世行き、てなことにもなりかねないからね。でも、鶏頭、つまり鶏の頭は大丈夫。安心してあげられる。

で、うちでも鶏頭は定番の餌だった。肉屋から10kg単位で買ってくる。たしかキロ10円くらいだったかな。こいつは掛け値なしの鶏頭だから、くちばしもとさかもまだついている。これをとらなきゃいけないんだけど、それが一仕事だった。

裏庭で大鍋に湯を沸かして鶏頭を放り込んでトロトロと煮込むんだ。そのうち灰汁が浮いてくるけど別に取らなくても出来上がりには関係ないから放っておく。頃合いを見て鶏頭を取り出し、とさかをひっぱるとズルって剥がれてくる。こうなると、くちばしも面白いようにはずれる。このとき鶏と目が合わないように注意するのがこつと言えばこつかな。

で、あとは小分けで冷凍しておいて、犬にあげるときは昼頃取り出してその辺に放り出しておけば、夕飯頃にはちょうどいい具合に溶けているというぐあい。

その日もいつも通りに手順を踏んで大量の鶏頭煮込みを作ったんだけど、たったひとつミスをしてしまった。煮込んだあとの煮汁は使い道がないから捨ててしまって鍋もきれいに洗うんだけど、なぜかその日は煮汁を捨て忘れてしまったんだ。きっとなにか急いでいたんだろうな。

でも、翌日の朝にそのことに気が付いて、梅雨時だったから腐るとまずいと思って急いで裏庭へ煮汁と鍋の始末に行ったんだ。そこには昨日僕が煮込むのに使った鍋が同じ場所にきちんと置かれていた。まだ腐ってはいないだろう、とその鍋へ近づいたとき、あれ、なんか変だな。なんだろう、って思ったんだ。鍋のまわりや中がちょっとおかしい。

目を凝らして良く見てみると・・・・・・思わず僕は後じさったね。もしかしたら軽い悲鳴をあげたかもしれない。そこに僕が見たものは・・・・鍋のまわりや煮汁の中に溢れている大量のナメクジだった!

煮汁の匂いに誘われて集まったらしいけど、一体あんなに沢山のナメクジがどこにいたんだろう。煮汁が見えなくなる程大量のナメクジがうねうね動いている。鍋の縁をずるずると這い回る奴らもいる。なんだか鮮やかな色をしたのまでいるじゃないか。僕はナメクジは平気な方だけど、それも1匹2匹ならの話で100匹を越えるような団体は勘弁してもらいたい。別に毒は無いのだろうけど、生理的嫌悪感という奴はどうしようもない。

一瞬、塩をかけてと思ったが、これだけのナメクジが一斉にとけたらどうなるのか、考えただけで気持ちが萎えてしまい、僕はなす術もなく立ちつくしていた。見なかったことにしたい。僕はここへは来なかった。あれはナメクジなんかじゃない、スライスした椎茸だ!と思いこもうとしたが、生憎と僕は椎茸も嫌いだった。

・・・あの大量のナメクジをどうやって処分したか、実は記憶が全く欠落している。その後もあの大鍋で相変わらず鶏頭を煮込んでいたから、なんらかの処置を施したことは間違いないのけど。人に忘却という自己防衛手段があってつくづく良かったと思う。

当時雑木林だった裏庭の前も、今では造成され宅地になってしまった。あのような惨劇は二度と起きないことだろう。今は犬も飼ってないし。

まだひとつめだけど、ここまで書いたら続きを書く気力がなくなってしまいました。すみません。もしどうしても残り二つの気持ち悪いことも読みたい、という方はまで励ましのメール下さい。こんなもの読ませやがってバカヤロー、でも構いません。

ああ、気持ち悪い。

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